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感想と考察:共感経営「物語り戦略」で輝く現場




書籍『共感経営「物語り戦略」で輝く現場』を読んだので感想を書きたいと思います。

1.本書を一言でいうと

VUCAワールド(変化が激しく・不確実・複雑・曖昧な世界)では、机上の分析よりも現場の「共感」にもとづく物語り経営戦略が大事!!

2.著者「野中郁次郎」について

知識経営の生みと親としていられており、世界的に知られている経営学者の日本人です。
著書に「知識創造企業」があり、ナレッジマネジメントのモデルを「SECIモデル」として理論化しました。
SECIモデルは暗黙知から形式知として知識を共有し、更に形式知から新しい暗黙知を創造するという、知識創造のスパイラルを示したものです。

3.日本企業の三大疾病

日本企業はいま、「オーバーアナリシス(分析過剰)」、「オーバープランニング(計画過剰)」、「オーバーコンプライアンス(法令順守過剰)」という三大疾病を陥って活力を失っていると著者は主張しています。それは1990年代以降、アメリカ流の分析的経営に過剰適応したことが原因となっているとのことです。本書はその三大疾病に陥っている会社に必要とされているのは物語り戦略であると主張しています。
 正直言って、私はこの主張には違和感がありました。私は顧客との接点が多い現場よりの職場で品質保証に関する業務をしていますが、自社について、分析不足や計画不足だと感じることはありますが、過剰だと思ったことはありません。また、法順守が過剰という状態がどのような状態であるか、イメージが出来ませんでした。
 しかし、本書を読み進めると、著者が主張する分析過剰、計画過剰とは、本社の企画部門などの現場から離れた組織が、ファイブフォース分析などの静態的な分析を行って、顧客や現場の感覚からかけ離れた計画を立てるような場面を想定されていることがわかりました。確かに、現場を知らない人が机上の空論や、顧客のことではなく社内のしがらみやメンツなどを重視したような計画が下りてくることは企業では良くあることだと思います。特に大企業であれば、なおさらその傾向が強いのではないでしょうか。
 このような三大疾病に陥っている会社が活気を取り戻すヒントとなるような事例が多く紹介されています。

4.「物語り戦略」を実践していくには

 本書では様々な企業の事例を「共感」という切り口で紹介しています。そこには、顧客との共感、地域社会との共感、社員との共感など、様々な形の共感があります。様々な関係者との共感を通してイノベーションを起こした事例が多く紹介されています。
 私なりに本書を読んで会社で実践できそうなことを考えました。

①共感の「場」をつくる

 著者は新しい知の製造の起点は、SECIモデルにおける共同化における「共感」であると述べています。SECIモデルが提唱されたころの日本企業では共感がごく自然にされていたので、表出化が重要視されていたが、現代では共同化が重要とのことです。
 最近はリモートワークが多くなり、オフィスで同僚と仕事について語り合うような場面は少なくなっています。先輩社員や上司からの指導も、10年、20年前に比べると、仕事終わりに飲みに行くというような機会も減っています。確かに暗黙知を暗黙知として伝えるような場面というのは少なくなっているように思います。また、直接業務で関係しない社員と顔を合わせる機会も減り、予期しないような仕事上の出会いも減っています。
 今後は意図的に社員が顔を合わせて語りあうような「場」を作る必要があると思いました。その際は、1対1や3人等の少数のほうが良いかもしれません。本書でも人と人が向き合いペアになると共感が生まれやすいということが記載されていました。「場」の形については、かつては飲み会の場などもよかったと思いますが、最近は飲み会が好まれない場合もありますので、どのような形の「場」を設けるかは検討が必要だと思います。1 on 1のミーティングや、Webでの対話、小人数での議論の場や課題に取り組み小集団(QCサークル)を設けたり、ゲームやスポーツを一緒にするなど、「場」を積極的に設けることで「共感」が生まれる環境を整えるとよいのではないでしょうか。

②「共感」できる目標とビジョンを共有する

 リーダーは、“メンバーの誰もが「面白い」と共振・共感・共鳴できる目標を設定”することが大事だと本書では述べられています。メンバーの誰もが共感できる目標を考えるというのはなかなかに難しいことだと思います。会社の存在意義をもとに、会社がどのように社会に貢献しているのか、どのような存在意義を示していくのか、というところが明確になって、社員に共有されていると、社員の共感を得られる目標が立てやすいのではないかと思いました。
 また、本書では”「究極の理想像」を想定し、そこに至るロードマップを示す”とありましたが、これはビジョンを設定して、ビジョンに向けてのロードマップを示すことに他ならないと思います。会社のビジョン、チームのビジョンなどを共有し、どのような方法でその状態にたどり着くのか、現状はどの位の進捗なのか、などをメンバーに共有することで、メンバーのやる気を高め、主体性を強めることが出来るのではないでしょうか。

③思考の往復(部分と全体、サイエンスとアート)を意識づける

 本書ではイノベーションを起こすためには、発想をジャンプさせる非連続な「跳ぶ仮説」が必要であると主張しています。「跳ぶ仮説」は”部分が綜合されて全体の概念となり、その全体の概念のなかで部分を位置づけたとき、部分の見方が変わって、発想がジャンプする”と生まれると主張しています。木をみて、森を見て、もう1回木を見ると、また違った発想が生まれるということです。
 また、物語り戦略はアートとサイエンスの綜合であり、”アートとサイエンスはどちらか一方の二項対立ではなく、サイエンスで超えられない壁をアートで突破し、アートだけでは出てこない解をサイエンスで求めるという具合に相互補完的であり、ダイナミックな二項動態の関係にあります”と述べています。
 物語り戦略でイノベーションを起こしていくには、部分と全体の視点で思考を行ったり来たりさせることや、アートとサイエンスの視点で思考を行ったり来たりさせることが必要です。長年同じ業務をしていたり、自分の思考のスタイルが固定されてしまっていると、なかなかこのように視点を変えることは難しいかもしれません。意識的に、「もっと高い視点から俯瞰的に考えてみよう」とか、「アートの側面から考えてみよう」とか思考を切り替える必要があるように思いました。私に関しては、もともと理系で、サイエンス的な考え方に偏りがち、というか、そもそもアート思考とはどのように考えるものなのかわかっていないので、今後勉強したいと思いました。




5.まとめ

 物語り戦略を実践するためには、共感を生む「場」を設けること、共感できる目標やビジョンを共有すること、思考の往復(部分と全体、サイエンスとアート)を意識づける、が大事だと思いました。
 一方で、日々の業務で手一杯で新しい取り組みをする余裕がない、という状況もあると思います。イノベーションを生み出すには時間的、心理的余裕が必要です。本書でHILLTOP社の事例が紹介されていましたが、ルーチンワークを自動化するなどして、社員がより創造的な仕事にあてる時間を生み出すということも、進めていく必要がある感じました。

6.本書を読んだ方にお勧めの本

 本書の物語り戦略に近い内容だと思いますが、もう少し分析的な側面が強めな本だと思います。


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